毎日多くの人々に愛飲されているコーヒー。しかし、その豆が私たちの手元に届くまでには、多くの工程と手間がかかっているのをご存知でしょうか?
今回は、その工程のうちトップクラスに重要な、コーヒー豆の精製方法について徹底解説していきます。

精製方法を知らないと好みも把握しづらいので、ぜひ知ってほしいです!
この記事のポイント
・精製方法はコーヒーの風味に大きな影響を与える。
・ナチュラル、ウォッシュト、ハニーといった用語の意味や違いが分かる。
・精製方法による味の違いは、同じ生産地、焙煎度で異なる精製方法の豆を飲み比べること。
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コーヒー豆とは?


実は、私たちがコーヒー豆と呼んでいるものは、コーヒーの実から採れる「種子」ということをご存じでしょうか?
コーヒーの木は、主に熱帯地域で自生・栽培されており、アカネ科の常緑木本です。
コーヒーの木になる果実(コーヒーチェリー)の中に入っている種子を、様々な工程を経て加工、焙煎し、私たちがよく目にするあの茶色い「コーヒー豆」として届けられています。
コーヒー豆の構造


それでは、コーヒーの実の中身はどうなっているでしょうか?
上の図がコーヒーの実の中身になっており、コーヒーチェリーは外側から順に以下のような層となっています。
- 果皮、外皮(skin):赤や黄色の表皮
- 果肉(pulp):甘みのある果肉層
- ミューシレージ:粘液質の層、ゴム状の糖質のぬめり
- 内果皮(パーチメント):繊維質の厚い皮
- 銀皮(シルバースキン):薄皮(焙煎後の豆にも残ることがあります)
- 種子(生豆):私たちがコーヒー豆として購入、飲んでいる部分
コーヒー豆の精製とは?


コーヒー豆は収穫されてから、主に以下のような工程を踏んで選別されます。
この収穫されたコーヒーの実から必要な部分(種子)を取り出し、輸送・保管・焙煎に適した状態にする一連の工程のことを精製(processing)と呼びます。各工程で豆の含水率を安定させること、微生物の影響による悪い発酵を抑えることなどが重要になってきます。
ちなみに、この後取り上げる精製方法は大きく分けて水洗式、非水洗式、半水洗式の3つですが、同じ精製方法でも国によって工程が若干異なっている場合もあります。その国のコーヒー栽培の成り立ちもありますが、国ごとに気候などの風土があり、その条件ごとに適した方法をとる必要があることも原因として挙げられます。
コーヒーチェリーを手摘みや機械などで収穫
収穫されたコーヒーチェリーを品質によって分類
水洗式は水に沈めるといった方法で完熟チェリーを分類、非水洗式は選別したらそのまま乾燥工程へ
精製方法によって特に異なるため後述します
天日乾燥、もしくは機械で乾燥
生豆の含水率を約12%以下にしていきます
脱穀機によってパーチメントを除去、種子を取り出します
決められた基準に則ってサイズや品質等による最終選別
ここまで終わって、ようやく焙煎前の生豆として出荷されていきます。
主な精製方法3選


それではメジャーな精製方法を3つ解説していきます。
水洗式(ウォッシュトプロセス、ウォッシュドとも呼びます)
果肉を除去してから、ミューシレージを発酵させ、水洗、乾燥させる方法。
なるべく完熟した豆を収穫して、果肉除去機で果肉を取り除きます。その後、水路で発酵槽(水を入れない場合もある)へ流し、ミューシレージを自然発酵で12-36時間かけて発酵させます。完了したらよく水で洗いミューシレージを除去します。ここでミューシレージが酵素や微生物によって分解され、それによって生まれる酸、糖質がウォッシュトの風味に大きく影響を与えると考えられています。
乾燥場にパーチメントを移して薄く広げ、豆の含水率12%程度を目指して乾燥させます。一日に何度かかき混ぜることで適切に乾燥させることが重要。ウォッシュトに限らず、乾燥が不十分だと生豆になってからの品質劣化やカビにつながり、乾燥させ過ぎても欠点豆につながってしまいます。
脱穀が終わったウォッシュトの豆は、緑っぽい色になりシルバースキンも少ないのが特徴です。。
風味の特徴(こんな風味が好きな方におすすめ)
・クリーンで透明感のある味わい
・オレンジやレモンのような爽やかな酸味
非水洗式(ナチュラルプロセス)
コーヒーチェリーごと乾燥させ、脱穀して生豆にする方法。含水率12%を目指しながら2-3週間かけてゆっくり乾燥させます。
伝統的な方法で、エチオピア、ブラジルといった国を筆頭に多くの国々で採用されている精製方法です。ナチュラル精製は未熟な豆が選別しづらかったり、微生物の力で発酵臭がついてしまうという事例が多々発生していましたが、丁寧な乾燥や乾燥場の見直しによって風味が改善されてきた背景があります。
一般的にウォッシュトよりも風味の個性が出やすく、多様化した風味が楽しめます。
風味の特徴(こんな風味が好きな方におすすめ)
・甘みと豊かなコク
・ベリーのようなフルーティな酸味
・ワインを思わせる風味
半水洗式(ハニープロセス、パルプドナチュラル等)
果肉は除去しますが、ミューシレージを残したまま天日で乾燥させる方法。
ハニープロセスはハニーと名前につきますが、はちみつを入れているわけではありません。風味向上を目的に、コスタリカで開発された精製方法ですが、ミューシレージをハニーとも呼ぶため、このような名前になっています。標高が高い地域の小規模な施設で採用されています。
ハニープロセスで有名なコスタリカでは、ミューシレージの除去率によってハニープロセスの呼び方が変わります。
- ホワイトハニー:ミューシレージ除去率90~100%
- イエローハニー:ミューシレージ除去率約50%
- レッドハニー:ミューシレージ除去率約30%
- ブラックハニー:ミューシレージ除去率ほぼ0%
風味の特徴(こんな風味が好きな方におすすめ)
・ナチュラルとウォッシュドの中間的な味わい
・甘みと酸味のバランスが特徴
その他の精製方法


スマトラ式(ウェットハル)
インドネシアで伝統的に行われている半水洗式の方法。スマトラ島は雨がたくさん降るため、豆の状態でなるべく早く乾燥させる方法をとっています。
機械で果肉除去したらすぐに半日程度乾燥させます。その後工場棟でミューシレージがついたパーチメントが脱穀され、スマトラ式では生豆の状態で10日程度乾燥させます。
含水率が高い生豆の状態で乾燥させることが、スマトラ式の独特な風味につながっていると考えられています。
風味の特徴(こんな風味が好きな方におすすめ)
・森、芝、ハーブといったエキゾチックでアーシー(野生的)な風味
・甘みと柑橘系のような酸味
嫌気性発酵(アナエロビック、アナエロビコ、カーボニックマセレーション等)
酸素を遮断した環境で発酵させる工程を入れる方法。
上で取り上げた精製方法も発酵は行われており、好気性発酵(酸素を必要とする微生物による発酵)が行われておりますが、こちらは嫌気性発酵(酸素を必要としない微生物による発酵)を取り入れる方法です。
比較的新しい精製方法で非常にユニークな風味になる一方で、既存のコーヒーではなく二次加工品ではないか、テロワール(生産地独特の風味)や品種といったものが無意味になってしまうのではといった疑念もあり、様々な観点で注目されています。
代表的な方法は以下の通りです。
- コーヒーチェリーを密閉タンクに入れ、空気を抜きながら酵母を増やしつつ乾燥へ向かう方法(アナエロビック)。この時、コーヒーチェリーについた酵母を培養して加える、パン酵母などを加えるといった例もあります。
- ワインの製法を真似し、二酸化炭素を充てんしたタンクで発酵させる方法(カーボニックマセレーション)
- 無酸素状態でアルコール発酵、乳酸菌を添加し2回の発酵を行う方法(ダブルファーメンテーション)
- パパイヤ、マンゴー、イチゴといったフルーツ、シナモンなどのスパイス、ワイン酵母など様々なものを加えて発酵させる方法(インフューズド)
風味の特徴(こんな風味が好きな方におすすめ)
・ウイスキー、ラム酒のような風味、または味噌のような発酵臭
・メロンやスイカのような瓜の風味
・漬け込んだ果物やスパイスの香り
精製方法の味の違いを理解する最も簡単な方法





精製方法の違いは分かったけど、まだ味の違いはよく分からないな…
精製方法が分かったら、初心者の方にはこういった疑問が生まれてくると思います。
それもそのはず、味覚は実際に試してみないことには磨かれません。
そして、その場で比較をするということが非常に重要です。
そのため、精製方法毎の味の違いを知るために最もシンプルで簡単な方法、
それは、同じ生産地、焙煎度で、異なる精製方法のコーヒー豆を飲み比べることです。



精製方法以外の条件(生産国、焙煎度)はできるだけ揃えないと、
味の違いが精製方法によるものなのかわかりづらくなってしまいます!
ここからは、精製方法による味の違いを知りたい方向けにおすすめのコーヒー豆をセットでご紹介します。
精製方法の違いを知りたい人におすすめのコーヒー豆
エチオピア ナチュラルとウォッシュト
エチオピアのコーヒー豆はフルーティーさやフローラルな味わいが特徴。
しかし、ナチュラルとウォッシュトで風味が全く異なります。
酸味は比較的強めですが、コーヒー初心者の方でもはっきりと違いが分かると思うのでぜひ試してみてください。
まとめ


コーヒー豆の精製方法は、最終的な味わいに大きな影響を与えます。従来の伝統的な精製方法に加え、新しい試みも次々と生まれているため、コーヒーを選ぶ際は自分の好みに合った精製方法を選択することがとても重要。
そのためには、それぞれの精製方法と味の違いについて、そして自身の好みを把握することが不可欠です。
私たちが普段飲んでいるコーヒーの味わいの違いをより深く理解し、楽しむことができます。次回コーヒーを選ぶ際は、ぜひ精製方法にも注目してみてはいかがでしょうか?
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